Cross My Palm

AKINAの新しい表現 英語詩アルバム「CROSS MY PALM」全解剖 

雑誌「オリコン」1987年8月号より

 

中森明菜のニューアルバムは、「CROSS MY PALM」。(8月25日発売)このアルバムに収められている12曲は、すべて外国人作家によるもので、明菜は全曲を英語で歌っているぞ。

このアルバムは、最近のアメリカのサウンド・トラック - 『トップガン』『ロスト・ボーイズ』『ビバリーヒルズコップ2』『ゴーストバスターズ』『フットルース』など - のように、複数アーティストによる、オムニバス・アルバムを明菜ひとりで 出来ないだろうか、というアイデアからスタートしているらしい。だから、曲ごとに色々なスタイルの歌い方をしているし、声の演出、キャラクターの変化にも大胆にチャレンジしている。

英語詩ということについては、NYで撮った同名のビデオのサントラにも使用されるので、よりイメージが広がるようにという狙いもあったようだ。また、明菜本人の強い希望もあっての実現だ。

 

「CROSS MY PALM」は、「運命を占う」という意味。その名の通り、今後の明菜を占うのに重要なアルバムだ。W・P(ワーナーパイオニア)の藤倉ディレクター(明菜担当)によると、「中森明菜という大きな幹があると思って下さい。そこから出ている葉の1枚が 「CROSS MY PALM」なんです。その葉が また大きな幹になるかもしれませんし、また全然違う葉をつけるかもしれません。今回も中森のチャレンジの1つなんです。」 とのこと。

 

CROSS MY PALM  オープニングから、いきなりタイトル曲。声の陰翳を巧みに使ったヴォーカルが印象的。♪AS I WALKED・・で始まる、女から男への囁き。「私の運命は、あなたにかかっている」という、甘くも 激しい女の囁きにドキッとする1曲。

 

POLITICAL MOVES インテリジェンスを漂わせた声と、ゾクゾクするようなONNA(女)の部分が両立する1曲。外人作家と明菜のカップリングならではの、ティピカルな洋楽ポップス。

 

SLAVE FOR LOVE ロバート・パーマー、マイケル・センベロ、アイリーン・キャラなどにも楽曲を提供しているデイビッド・バチューの手による作品。感情の起伏の少ないメロディーが明菜の女の魅力を倍化させている。(※カバーの可能性。)

 

EASY RIDER ミディアム・ダンスビート・ナンバー。かなり音域の広い曲だが、それを見事に歌いきっているのは、さすが。特にサビに入る EASY RIDER の箇所は、静の迫力がヒシヒシと伝わってくる。

 

MODERN WOMAN 原曲は、フランス語で書かれているナンバー。メロディーの端々に、フレンチ・ポップスの香りを漂わせている。陽だまりの中のアンニュイのような、ヴォーカル・キャラクターが最高。佳作である。(※ジャンヌ・マスのカバーである)

 

THE LOOK THAT KILLS シングル「BLONDE」の原曲。高い声で放つように歌っている。ブラック・コンテンポラリーで よく出会うギター・カッティングと、腰に来るリズムは、ディスコで流れてもGOOD。

 

SOFT TOUCH かなりセクシーな歌い方。相当に挑発的なヴォーカル。なめるようなスイート・ボイス。どれも かなりの線でゾクッとする。♪あなたの腕の中で太陽のように燃えたいという詩も、英語だから歌えるのかもしれない。同名ビデオでは、なかなかに、ヤバイ ビジュアルになるとか。

 

MY POSITION ポリスのアンディー・サマーズ(ギター)とも親交の深いトニー・ヒューメックが書いた曲。♪私たちは一緒に なるべきよ、と誘う女。ロンドン風のビートがきいた深いラブソング。(※カバーの可能性。)

 

THE TOUCH OF A HEARTACHE 元WHOの、ロジャー・ダルトリーのアルバムにも曲を提供している、ジュリア・ダウンズの手による曲。肉食の西洋文化圏における、ベジタリアンのようなアッサリとした、ヴォーカル。ツイギーな1曲。(※カバーの可能性)

 

HOUSE OF LOVE サンディー・スチュワートという フリードウッド・マックのアルバムにも曲を提供している女性シンガーソングライターが書いた曲。(※カバー作品のようである)

 

NO MORE あなたのワガママは、もうたくさん!という別れの歌。強い女、自立できてる女、意志ある女風である。が、別れる男を思いやる一面も見せる。

 

HE'S JUST IN LOVE WITH THE BEAT パット・ベネターノアルバムにも曲を提供している、コンビが手がけた曲。オールディーズ風のアッケラカンとしたムード。ポップで明るいヴォーカルで幕を閉じる。(※カバーの可能性あり)

 

以上が、オリコンからの転載である。12曲中、何曲がカバーなのかは、分からないが、半分(もしくは、それ以上)カバー作品なのかもしれない。だって、現在聴いても、かなり楽曲自体のクオリティーは高いしね。1987年の明菜は、本当に よく働いた。まさに「歌謡界の女王」であった。「TANGO NOIR」「BLONDE」「難破船」と、リリースしたシングルは全て30万枚を突破。年間チャートにもランクインさせている。

この英語アルバム「CROSS MY PALM」をリリースした、約1ヵ月後の9月30日に、名曲「難破船」をリリースするのだから。(「難破船」はカバーだけどね)演歌チックな世界の「難破船」。この曲は、今でも明菜の「代表曲」となっている。そんなシングルと並行して、ライブでは、「CROSS MY PALM」の楽曲を歌ってたんですよね。

20年前の明菜って、今 思い返しても「スゴイなぁ」と思うのでありました。
・なお、「CROSS MY PALM」は、最初から、「全米進出」なんて、明菜サイドは、ちっとも思ってない思う。あくまでも「日本の明菜ファン向けの、サービス」だった、と言えよう。89年夏に、アメリカで発売されて、90位台にランクインするなんて、関係者も思ってもいなかっただろうな。多分、アメリカ在住の日人が沢山買ったんじゃないかと。逆輸入もされたしね。もう1度言う。「20年前の作品」である。

 

「ヤンソン」より。明菜インタビュー。

「月刊明星」10月号・付録「ヤンソン」より。

「明菜 22の夏」

 

「わたし、7月13日に、やっと22才になりまして・・・。でも、わたしの顔って、すごく童顔だから、鏡の前で素顔を見ていると、”ほんとに22才の女なのかな”と思っちゃうんですよ。お化粧でなんとかカバーして、大人っぽく見せてるんです。実は・・・。(笑)8月25日に発売するLPを、やっと作り終えたんですけど、今回は、すごく大変だったなぁ・・・。なんと12曲、ぜーんぶ英語詩の作品なんですよ。わたしは、もともと英語ってニガ手でしょ?だから、英語の先生に来てもらって、ひと事ずつ、レッスン受けながら、レコーディングしたんです。それと、英語の歌って、発声が違うんですよね。ふつう、わたしの声のKEYは、F(ファ)→F までの範囲って決まってるんだけど、今度のLPに収録した曲は、もっとずっと高い声まで出してるんですよ。

A面の6曲目に入れた「THE LOOK THAT KILLS」という曲は、こないだ発売したシングル「BLONDE」の原曲なんです。ボーカルが全然雰囲気ちがうので、聴きくらべてみると、きっとおもしろいですよ。

(中略)

いま、ステージで歌っていると、本当に、みなさんと ひとつの心になれるような気がするんです。この気持ちは、ずっと大切に持って、これからも歌っていきたいと思います。どうぞよろしく。

 

アルバム・タイトルの意味は「運命を占う」。洋楽の「サントラ盤」のような作りになっている。シナリオ付の写真集、同名のビデオと、3点セットで、どうぞ。(ちなみに、ビデオは、映画「ナインハーフ」をイメージして作られたそう)全部、ぜーんぶ。ニューヨーク・ロケで、お金かかってます。ロケ中、NYの通りで、スタッフの1人が「ひったくり」に合ったそうで。そんな危険な街・眠らない街・NYでの「中森明菜の世界」を、ご鑑賞下さい。