D404ME

『歌謡曲・名曲 名盤ガイド・1980’S』の本より。

”だしおしみ”とも読む(らしい)通算8作目のオリジナル・フルアルバム。アルバム冒頭と最後に雷鳴のSEを収録。シンセ・ドラムとホーンを強調したメタリックなサウンドで、「ノクターン」「悲しい浪漫西」に顕著だが、これが意外に明菜のナマっぽいヴォーカルとシンクロして独自のシュールな宇宙を築いている。

 

「ENDRESS」「マグネティック・ラヴ」は大貫妙子作曲だが、どちらも彼女の個性であるヨーロピアンスタイルとは異なり、前者は哀愁ブラコン歌謡、後者はファンキーなサウンドが粘っこいメロディーと妙にマッチ。間奏で「ミ・アモーレ」が一瞬登場するユニークな遊びも。飛鳥涼の哀愁メロディとAKAGUYのフュージョンサウンドのミスマッチ「ノクターン」も聴き所。テクノ歌謡「BLUE OCEAN」では久石譲がアレンジとキーボードを担当。シングル候補にも残った忌野清四郎作曲の歌謡ロック「STAR PILOT」はRCサクセションのアルバム『ハートのエース』収録の「スカイパイロット」に別歌詞を載せた変形。B面3曲(注:6、7、8曲目)は明菜サウンドの新機軸であり、彼女も蓮っ葉な唱法で新たな境地に挑んでいる。従来の明菜世界は「モナリザ」1曲と言ってもいい。ラストに「ミ・アモーレ」のサンバ・バージョンを収録。

 

個人的には、アルバム『不思議』の次に「明菜らしくないアルバム」だと思う。(『will』は論外なので、対象とせず)全体的にエフェクト加工・音処理されているせいか、「異質」な感じを受けるのだ。明菜のボーカルも、様々な実験的歌唱を試みていて、その「姿勢」は評価出来るものの、今聞いても、当時も「違和感」を感じるアルバムだ。もっと正直に言うと、あんまり好きじゃないって事。1曲1曲ごとのクオリティーは低くないし、結構何度もリピートしてしまうアルバムなんだけれども・・・これといった「決定打」の曲がない。最後に「ボーナス・トラック」として、「ミ・アモーレ」を入れたのも、大正解。

 

このアルバムのタイトル「D404ME」とは、告知ポスターや、雑誌の広告によるとN・Yにある倉庫街にある、倉庫のD棟・4階の「ママ・サンドラ」の部屋の名前らしい。コンセプト的なストーリーも存在する。しかし、そのストーリーとは、このアルバム収録の10曲とは、全く関係がない。(86年の『不思議』に収録予定だった「赤毛のサンドラ」という曲は、もしかしたら関連性があったかもしれない。が、あくまでも推測。)

 

同年4月3日に発売したアルバム『BITTER&SWEET』から、たった4ヶ月でこのアルバムをリリースした事自体、明菜もスタッフも「ノッている状態」だったのだと思う。当時のアイドルは、1年間にシングル4枚、アルバム3枚とか普通にリリースしていたし、むしろ明菜は、ペース的には少ない方だったと思う。それでも明菜も1年間にシングルは3枚、アルバムも企画アルバムを入れて2~3枚はリリースしていた。1988年までは。いい時代だったなー。それだけアイドル歌手に作品提供する『作詞家』『作曲家』も多かったという事なのだろう。そして、明菜の下には沢山のデモ・テープが届けられたそうだから、(一説によると、1回の制作で数百本)その中から選びぬかれた吟味された作品・・曲のクオリティーが高いのも、当然といえば当然だ。

 

 1・ENDLESS

雷鳴の音が鳴り、1曲目がスタート。作詞・松本一起、作曲・大貫妙子、作曲・井上鑑。となると、ソフトなバラード・・・ではない。結構激しいサウンドの曲。「汚したくない」「甘えたくない」「自分に負けたくない」「立ち止まりたくない」「イラナイ」「嘘などないと」とナイナイづくしの歌詞が印象的。「幕の内弁当」的なアルバムを飾るには、良いんじゃないかと。当時の明菜が歌うにはふさわしい「ツッパリ・ソング」的な楽曲。

 

 2・ノクターン

飛鳥涼提供の楽曲。『予感』にしろ、『夢のふち(注:歌詞だけ)』にしろ、明菜と飛鳥涼の曲の相性って良いと思う。冒頭の「気がつけば音のない 回るだけのレコード 針を止める 余裕もあげはしない」から、もうスリリングな世界。明菜のビブラートが余りにも効きすぎているが、この曲は、いい歌です。86年の「DESIRE」の歌唱の片鱗が見られます。

 

 3・アレグロ・ビヴァーチェ

作詞・三浦徳子、作曲・編曲・後藤次利。この頃の後藤次利って、おニャン子クラブとか工藤静香、とんねるずに作品提供してブレイクする前の時期です。この人って『夢のふち』とか『夜のどこかで』『ROSE BUD』とか、割と明菜と接点あったんですね。90年代は、工藤静香とか、とんねるずに「ほぼ独占」されてた感じがしますが。サビの「DANCE AGAIN~」のフレーズが印象的。というかサビばっかりの構成の楽曲。
 
 4・悲しい浪漫西

作詞・許暎子、作曲・都志見隆、編曲・中村哲 同年6月にリリースされた「SAND BAIGE」の作詞家&作曲家のコンビの作品。もしかしたら、シングル候補だったかも?これも今聞くと『平凡な作品』。当時の明菜作品としては、新鮮だったのかも?「アレグロ・ビヴァーチェ」も、そうだったが、悪くはないけれど、決してシングルには出来ない。あくまでもアルバムの中の1曲。って感じです。

 5・ピ・ア・ス

作詞・岡田冨美子、作曲・タケカワユキヒデ、編曲・中村哲 LP(カセット)のラストを飾るには、やはりバラードでしょ。歌詞だけ見ると、別れた彼の事を懐かしむ少女の独白・・・というか自問自答って感じ。なのに、明菜作品にしては珍しく、暗さは・・無い。「思い出がしびれる」状態にいる少女の心理状態なのだ。「何故 別れたの?」と言いながら、「この せつなさに いらだつ真夜中が好き」だの 「今なら もっとうまく 愛せそうな気がする」「電話のベルは ならないけれど 二人のライン もういちどつながりそうよ」だの、『根拠の無い自信にあふれている状態』。恋愛の主導権を握っていたのは、私の方なのよ・・・という自信か?
86年のコンサートでは、「ありふれた風景」に続き、2番目に 唄われた歌である。  

 6・BLUE OCEAN

作詞・湯川れい子、作曲・NOBODY、編曲・久石譲 B面の1曲を飾る、カラっと明るいナンバー。この歌は最初「こ惑」というタイトルで、別の歌詞が存在していたが、こちらの歌詞に落ち着いた。湯川れい子の歌詞は、アン・ルイスだけじゃなくて、明菜にも非常に合う。「イケイケ女(死語)」を書かせたら、彼女の右に出る者はいませんね。「TOKYO(このまち)は 広すぎて 顔も見えないあなたが 誰かさえ 忘れたわ」の歌詞は、いかにも湯川サン。   
   
 7・マグネティック・ラブ

作詞・EPO、作曲・大貫妙子、編曲・清水信之 「磁力の運命 信じてもいい」「あなただけに愛されたい」と「恋の予感」を唄う。冒頭の「スピンしながら たおれこむジルバのように マグネティック・ラヴ」の歌詞をはじめ、歌詞自体はオシャレなんだけど、ただ、それだけーのEPOの世界。明菜は当時EPOのアルバムを、よく聴いていると、雑誌で語っていたが。大貫妙子の曲も「凡打」って感じ。大貫さんは、93年のMCA移籍第1弾のシングル「EVERLASTING・LOVE」の作詞もしてるけど、これも「凡打」だったし。本人の歌う楽曲は、沢山名曲があるのに、どうも明菜との相性はイマイチ・・ですね。

 8・STAR PILOT

作詞・ちあき哲也、作曲・忌野清四郎&小林和生、編曲・後藤次利 個人的には、このアルバムの中で(ミ・アモーレを除き)1番好きな歌。アッパ-なサウンドに明菜のボーカルが絡んで、聴いていて非常に心地よい。歌詞も深読みすると、エロティックなんだけど、それを感じさせないのは当時の明菜の人気・キャラクターのせいかな?今、ライブで披露しても盛り上がりそうな楽曲。自分は1度も「生」でも「テレビ」でも唄ってる姿を見た事がありません。いつか披露して欲しい!いかにも「忌野サウンド」ですよねぇ。

 9・モナリザ

作詞・竹花いち子、作曲・編曲・後藤次利 アルバムに「統一感」をもたせる為か、この歌も「風が二人逢わせたぁああああ」「運命を感じてるのよぉおおお」と、必要以上にビブラート全開。いわゆる「明菜のモノマネ」の時の歌唱法。とはいえ、歌詞や曲の雰囲気は、「これからNATURALLY」みたいな世界なので、シングルのB面になっていたとしてもこの曲に関しては、違和感は無い。「モナリザになりたい あなたの前で」・・・コンセプトは非常に単純明快。でも今まで「モナリザ」を唄った歌って、全然なかった気がする。有名なナット・キング・コールの歌があるからでしょうか?

余談ですが、中山美穂がファースト・コンサート(だったと思う)で、この歌を唄っています。「バージン・フライト」というタイトルでライブビデオ&ライブレコードを発売しましたが、その中に収録されております。中山美穂が明菜ファンだったから、披露したんでしょうか?それともスタッフに言われたからなのか?アイドルのファースト・ライブって、自分の持ち歌が少ないから、結構他の人の歌を唄うんですよねー。明菜のファースト・コンサートは、山口百恵の「夢先案内人」、岩崎宏美の「シンデレラ・ハネムーン」などを唄ったそうです。

 10・ミ・アモーレ(スペシャル・ヴァージョン)
    

当時のLP・カセットでは、「10曲目」としてではなくて、あくまでも「ボーナス・トラック」扱いとして記載されていました。「シングルとアルバムは別」の考えは、この辺りから真剣に考えたのかもしれません。過去には『NEW AKINA エトランゼ』というシングルを入れないアルバムを1枚出していますし。86年以降、『不思議』~88年の『FEMME FATALE』まで5作連続で、オリジナル・アルバムに「シングル」は入れていません。(「クロス・マイ・パーム」の中の「THE LOOK THAT KILLSは、「BLONDE」の原曲・英語曲だったけれどね。)

『BITTER&SWEET』でも、「飾りじゃないのよ涙は」の   アルバム・ヴァージョンを収録してたけど、シングルの別アレンジをアルバムに収録するって、85年のアイドルでは結構珍しかったです。

(今、浜崎あゆみとか、1つのシングル曲の中でリミックスを入れまくってるけどねー。昔だったら、あれだけリミックスを入れたら、「ミニ・アルバム」扱いされたものです。『SEASONS』『DEAREST』とか・・)

もちろん、明菜以外のアイドルも当時やってましたが。12インチ・シングルを出したり、「世界初のグラフィカル・デイスク」という『MY BESTTHANKS』を12月に出したりと、85年の明菜は、本当に精力的に活動してたなぁ。

このアルバム・ラストの「ミ・アモーレ」は、最初から1番の終わりまではシンプルな民族楽器のアレンジで歌唱。2番からはオリジナルと、ほぼ同じ演奏アレンジ。そして、最後にまたシンプルな民族楽器の演奏が付け加えられて終了。「お祭りの集団が近づいてくる様子」や「祭りのあとの静けさや無常感」が見事にアレンジに表現されているのでは?と思う。このサンバ・アレンジで、いつか「ミ・アモーレ」をライブで聴いてみたい!

 

このアルバムのジャケットは、当時 原宿?にあった、「CLUB-D」というディスコで撮影されました。きっと明菜は常連客だったんでしょうね。(ちなみに、「二人静」のジャケットは、麻布十番の「マハラジャ」で撮影された)白い衣装の明菜。足に はいてあるのは、コンビニのビニール袋で、明菜自身によるアイデア。コウモリが沢山飛んでいる可愛いセットにも注目。歌詞カードのインナーにもコウモリのイラストが数匹。ドラキュラというより、「カワイイ白い魔女」って感じ。この辺は、まだアイドルでしたね。雑誌やテレビでも、インタビューには、全然出なくなりましたね。トップ・アイドルにしては、珍しかったです。CMの依頼にも、「吟味」して、限られたCMにしか出なかったとか。あくまでも「歌手」として、レコードやライブで勝負!の明菜。

 

だから、アルバム名も「ダシオシミ」になった・・・との噂。